2026年8月11日、横浜のクリエイティブ拠点 Dance Base Yokohama(DaBY)にて、振付家・ダンサーの阿目虎南(あもくこなん)による最新作『R/evolution(s)』のリハーサルが行われた。これは、世界最大級の舞台芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ2026」での上演に向けての最終リハーサルで、一部メディア、評論家に公開された。
彫刻的視座を持つ異能の舞踏手・阿目虎南
今回、世界へ挑む阿目虎南は、極めてユニークな経歴の持ち主だ。2008年から2019年まで、日本を代表する舞踏カンパニー・大駱駝艦に所属し、主宰の麿赤兒に師事してきた。一方で、2010年には武蔵野美術大学彫刻学科を卒業しており、その創作の根底には「彫刻的視座」が深く根付いている。
阿目が提唱する独自の舞踏技術「Multi layered body(多層的な身体)」は、現象学や彫刻的なアプローチに基づき、身体を単なる肉体としてではなく、多層的な質感を備えた「即物的なドラマ」として捉え直すものである。
彼の作品は、ソリッドで緻密な身体性を持ちながらも、観る者を熱狂させるようなメタ的な構造を併せ持っている。2019年の独立以降は、ソロ活動やアーティストコレクティブ「燦然CAMP」の主宰として、国内外で高い評価を得てきた。
舞踏の系譜を継承し、現代へ接続する作品
『R/evolution(s)』は、2025年に愛知県芸術劇場で初演された。大駱駝艦で培った舞踏の精神を血肉とする阿目と、多様な背景をもつ4名のコンテンポラリーダンサー(長田萌夏、鶴見香弥、畠中真濃、松倉祐希)が出会うことで生まれた、全く新しい「現代の舞踏」である。
タイトルの「Revolution」には、天体の「公転」と、社会や意識の「革命」という二重の意味が込められている。作品は、舞踏が持つ土着的な力強さを継承しつつ、和太鼓やドラム、さらにはクラブカルチャーを彷彿とさせる音響や照明を取り入れることで、現代の感覚へとアップデートされている。初演後も、DaBYでのリサーチやワークショップを経て、約1年をかけて緻密なブラッシュアップが重ねられてきた。
銀色の光と一瞬の窒息
公開された最終リハーサルは、現地の舞台環境を想定し、照明や美術も本番に近い形で再現され、渡航を目前に控えたアーティストたちの熱気と、張り詰めた緊張感がスタジオを支配していた。
【視覚的インパクト:銀の装飾と舞台美術】
まず目を引くのは、ダンサーたちの特異なビジュアルだ。伝統的な舞踏の象徴である「全身の白塗り」は行われていない。その代わりに、顔の目元から頬骨あたりにかけてうっすらとシルバーのメイクが施され、無機質な表情を作り出している。衣装にもシルバーのペイントや切片が飾られており、シャープにかつ美しく照明を反射する。
舞台奥には、縦2メートル強、横1メートルの巨大なアルミシートが折り畳まれて置かれている。公演後半にはこれが垂直に引き上げられ、劇的な空間変容をもたらす仕掛けだ。床面にも50センチ四方のアルミフォイルが4枚配置され、ダンサーたちはそこをダンスエリアとして活用していく。
【身体の記憶:集団舞踏の系譜】
作品全体に流れるムーブメントは、コンテンポラリーダンスの軽やかさよりも、舞踏特有の重力感や歪みに寄っている。一人のダンサーが発する鋭い掛け声を合図に、全員の動きが有機的に、かつダイナミックに変化していく場面は、阿目の師である麿赤兒率いる大駱駝艦の集団舞踏を強く想起させる。しかし、その身体の使い方は阿目独自の「Multi layered body」によって、より細分化され、現代的なキレを伴っている。
【聴覚と呼吸:生と死の境界線】
最も衝撃的だったのは、中盤に訪れる静寂の瞬間だ。激しい音楽が突如として止まり、一瞬の暗転が訪れる。照明が地明かりに切り替わると、そこからは立ち姿を中心としたダンサーたちの姿があった。4人のダンサーは深く、重い呼吸を刻み、言葉ともつかぬ声を漏らしながら移動を開始する。
阿目は、生命維持に不可欠な「呼吸」という循環の中に、意図的に「切断」を入れ、「ひび割れ(クラック)」を打ち込むようダンサーに要求する。この「一瞬の切断」から生じる身体の震えや、そこから立ち上がってくる未知の質感こそが、この作品の核心の一つだと言えるだろう。観客は、ダンサーたちの喉から絞り出される微かな声と、極限にまで緊張した身体が発する熱量に圧倒される。
エディンバラで挑む「12ステージ」の試練
エディンバラ・フェスティバル・フリンジでの公演は、極めて過酷な挑戦となる。8月18日から30日まで、24日の休演日を1日挟むだけで、連日計12回の上演が予定されている。
日本国内のダンス公演において、2週間もの期間を毎日踊り続けることは極めて稀である。体力・精神力ともに限界が試されるこの「12ステージ」という経験は、振付家にとってもダンサーにとっても、自らの表現を極限まで深めるための真剣勝負の場となるだろう。現地の観客や、世界中から集まるプロモーターたちの目に、この「現代の舞踏」はどう映るのか。
Dance Base Edinburghのディレクター、トニー・ミルズ氏は、本作を愛知で鑑賞した際、「エディンバラで非常に注目されるだろう」と太鼓判を押している。
横浜から世界へ、そして未来へ
阿目虎南の『R/evolution(s)』は、舞踏という日本独自の身体知を、現代のコンテクストへと鮮やかに接続させた。公開リハーサルで見せた、あの「一瞬の窒息」の先にある身体の輝きは、言葉の壁を超えて世界の観客に届くはずだ。
Dance Base Yokohama 唐津絵理アーティスティック・ディレクターのコメント
「今回、エディンバラ・フェスティバル・フリンジ2026での公演会場となるのはDance Base Edinburghというダンスハウスで、私が 10年ほど前にエディンバラを初めて訪れた時に、ダンスの拠点としてたくさんのダンスパフォーマンスをやっていた場所です。その時にDance Base Edinburghの活動内容を知って非常に希望を感じて、日本でもしダンスハウスを作ることができるとしたら、こんな場所にしたいと考えたところで、もう名前から分かるようにDaBY を作るにあたって参考にさせていただいたダンスハウスです。
そして、 2023年からいろいろとお話をしながら連携協定を結ばせていただいて、今回に限らずこれから長期にわたって Dance Base EdinburghとDaBYが色々な企画をエクスチェンジをしていくということになっていて、今回の阿目虎南『R/evolution(s)』はその第1弾となっています。
今回私たちが8月に行かせていただいて、 10月にはエディンバラの方からヒップホップ系のアーティストを横浜にお招きして、ここで 3週間レジデンスをするというようなのエクスチェンジとなっています。このプログラムは文化庁の『クリエイター ・アーティスト等育成事業【舞踊部門】』というものに採択されておりまして、DaBYが取り組んでいる“Wings”というプロジェクトの一作品です。
阿目虎南さんは大駱駝艦のメンバーとして、またソロの振付家としても活動しておりますが、今回はコンテンポラリーのダンサーと一緒に作品を作りませんか?とご相談をして、DaBYにも関わりのあるダンサーたちと一緒に作品を1年かけて作ってきました。去年10月に愛知県芸術劇場の方で初演した際に、Dance Base Edinburghのディレクターのトニー・ミルズさんが見に来てくださって、全部見た作品の中で、“この作品をぜひエディンバラでやってほしい。きっと非常に注目されるだろう”というお墨付きをいただいて、この作品をエディンバラにもっていくということにいたしました。
現地では8月18日から30日まで12回公演と日本ではなかなか経験することができない毎日毎日踊るという非常にハードなパフォーマンスになりますが、そういったことも含めて、ひと回りもふた回りもいい作品にして日本に戻ってきたいと思っています」
公演日程: 2026年8月18日(火)〜 30日(日) ※8月24日(月)は休演
上演回数: 全12回
会場: エディンバラ Dance Base 1
演出・振付・美術:阿目虎南
出演: 長田萌夏、鶴見香弥、畠中真濃、松倉祐希
音楽: 網田破裂音、鳴神硬雪
プロデューサー: 唐津絵理(Dance Base Yokohama / 愛知県芸術劇場)

