座・高円寺、新芸術監督シライケイタ就任会見「従来の路線継承しつつ、世界に羽ばたく作品も生み出したい」

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杉並区の公共劇場、座・高円寺(正式名称・杉並区立杉並芸術会館)は、7月1日から新芸術監督となったシライケイタの就任記者会見を7月10日に開催した。

座・高円寺は、杉並区の公共ホールとして長年親しまれた前身の「高円寺会館」を、「演劇を中心とした小劇場」「区民の多様な文化活動の場の提供」「地域の個性と結びついた文化の創造の場」という基本コンセプトのもと平成21年に開館した公共劇場。開館準備期間の平成9年7月から佐藤信が芸術監督となって、基本コンセプトに合わせたプログラムづくりを行ってきた。

その佐藤信が今年6月末までで芸術監督を退任することになり、杉並区は4月から芸術監督を広く公募。勤務日数や報酬なども情報公開した透明性の高い選考方法は、演劇界で注目を集めていた。結果的に30代〜70代まで、遠方は九州在住者も含めて74名の応募があり、そのなかから書類選考で4名に絞り込み、プレゼンテーション及びヒアリングを実施して、最上位となったシライケイタが新芸術監督に選出されたという。

シライケイタは、1974年東京都出身。俳優として蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」のパリス役でデビュー。その後、2010年劇団温泉ドラゴンを旗揚げし、初戯曲となる「escape」を執筆。以降、同劇団内外で数々の脚本・演出を手掛けるほか、日本演出者協会副理事長、日韓演劇交流センター会長を務めている。

シライケイタ芸術監督就任についてのコメント
なぜ私が、この公募に応募しようと思ったかということを少しお話しさせていただきます。20数年前、ヨーロッパを旅行したことがあります。亡くなるまでにヨーロッパに行こうと思って、行き先を決めずにアルバイトで貯めた50万円くらいで航空チケットを買って、結局1月半ほどバックパッカーとして旅行しました。そのうちの半分くらいはイギリスにいました。イギリスの演劇がとても面白くて、 日本では見られないような作品がいっぱいありました。『ライオンキング』が始まったばっかりだったと思います。

そういった作品にももちろん驚いたんですけれども、最も驚いたのが観客でした。劇場の外に、その日の夜8時開演のソワレ公演の当日券に並ぶために、2時とか3時から 長蛇の列を作っていました。それはすごく小さな劇場でした。もちろんバービカンシアターとかナショナルシアターも行きましたけど、小さな劇場でもそういう光景が普通にありました。老夫婦が折りたたみの椅子を持って並んでいる。それで僕も並ぶと話しかけられました。「どこから来たんだ」「日本から来ました」「英語そんな下手なのに、演劇を見てわかるのか」「分からないけど感じるんだ、心で」みたいなことを言いながら、とてもすごい豊かな時間だなと感じていました。1つの芝居を観るために、こうやっていろんな人と話をして。で、終わった後にその老夫婦が僕に話しかけてきてくれて、「どうだった、分かったか?」って言いながら、「日本でアクター頑張れよ」って言っていただいたことが記憶に残っています。

日本では、そうやって観客同士が交流することも、 夜の公演のために昼過ぎから並ぶことも、ほとんど見たことがなかった光景で、「日本でこういう光景が実現するのにどれぐらい時間かかるのかな、羨ましいな」と思った記憶があります。そもそも、文化芸術というものに対する土壌が違うのかな、と思って。 当時は僕は演出家でもないし、劇作家でもないし、ましてや劇場の芸術監督でもありませんので、土壌を自分が耕していくという発想はありませんでした。けれども、ひとりの俳優として羨ましい、こういう国に日本もなったらいいのにと思った体験があります。

二十数年経った今、座・高円寺の芸術監督公募を知った時に、もしかしたら、芸術監督という仕事は、土壌を耕しているという意味において、最も適した仕事なのではないかと思いました。それと、3年前にコロナ禍になったときに再び、演劇や舞台芸術分野の土壌ということを考えました。 演劇人の仲間や音楽関係者、そして映画関係者の仲間と一緒に、この窮地を救ってくださいという活動を国や行政に対して行ったり署名を募ったりしたなかで、日本は芸術分野の土壌が育ちきっていないという思いを新たにしました。この国に芸術文化をなんとか根付かせたい、裾野を広げていきたい、そういう思いで今回応募させていただきました。

この劇場の最大の魅力というのは、佐藤信前監督が力を入れてこられた子供向けのプログラムとか、地元の区民密着のプログラム、それらは非常に優れた魅力的なプログラムだと思います。間口が広く、敷居は低く、特に子供たちを中心とした観客に対するアプローチは、座・高円寺の最大の魅力だと思っています。その部分に関しては、これからも継続してより発展していく。

日本の現代の演劇界では、どうしても、新作至上主義に走らざるを得なくて、新しいものを短期間でどんどん生み出していかないといけないシステムになっています。でも、ここで行われてることは、レパートリー作品を何年にもわたってブラッシュアップしながら、継続して提供している。その作品のファンになっている方や、繰り返し見てくださる方っていうのがとても多いわけですね。これは本当に、何よりも代えがたいこの劇場の活動だと思います。 新しいパートリー作品を生み出すということも、これまでの優れたレパートリー作品を継承していくということも含めて継続していきたい。

一方で、その対局のような作品、より先鋭的で、現代の日本の演劇界を代表するような、その年の目玉になるようなものも作っていきたいと思います。多くの演劇人が「高円寺で生み出されたこの作品はものすごいね」というようなものであったりとか、世界に影響を与えるものであったりとか、そういう作品も、具体的には本当にこれからですけれども、より広く、 より遠くへ羽ばたいていけるようなクオリティの高い作品を生み出していきたいと思っています。

もう1つは、これもこの劇場の特徴ですけども、海外から様々なアーティストを招いて、国際交流をとても豊かに継続してきたという歴史があります。演劇の一番の特徴であり一番の武器が、言葉で他者と関わる、他者とダイレクトに結びつく芸術であるということ。この最大の特性を生かした一番のものが国際交流です。文化の違う人と交わり、出会うことなんだって思います。その部分に関してもより発展した形を模索していきたいと思っています。

そういったすべての活動が、翻って杉並区民の皆様にとって誇りであり魅力であると。この杉並の高円寺の地からそのような世界に羽ばたいていくような作品が生み出されるということが、すべての区民の皆さんの喜びと誇りであるような、そういう劇場を目指していきたいと思っています。

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