新国立劇場『夏の夜の夢』

新国立劇場『夏の夜の夢』
レビュー

劇場=初台:新国立劇場・中劇場
5/29(金)− 6/14(日)
評価:★★★★(Very Good)6/2(火)夜所見

●作=ウィリアム・シェイクスピア
●翻訳=松岡和子
●演出=ジョン・ケアード
●出演=村井国夫、麻実れい、チョウソンハ、細見大輔、石母田史朗、小山萌子、 宮菜穂子、青山達三、大島宇三郎、吉村直、大滝寛、小嶋尚樹、酒向芳、水野栄治、神田沙也加、JuNGLE 倉田亜味、清家悠圭、森川次朗、浅井信好、柴一平、西田健二

 2007年に初演されたプロダクションによる再演。ついつい奇をてらった演出に走りがちなシェイクスピアの定番戯曲を、手堅くスタンダードな形でまとめ、役者の演技を楽しめながら、それでいて演出的な工夫も伺える上演となった。東京公演の後に、富山県のオーバードホールでも上演されるというが、今後も新国立劇場の大切なレパートリープロダクションとして、長く再演してほしいと思える良質な作品に仕上がっている。

■日本のシェイクスピア上演としてのスタンダード

この舞台でポイントになったのは、アテネの侯爵シーシアスとその婚約者ヒポリタをはじめとした人間の恋人同士、そしてオーベロンとティターニアら妖精たちの世界を完璧に対をなすものとして描いている点だ。そのため舞台装置も、シーシアス侯爵の宮廷を白いシンプルなセット、妖精たちのいる森はごちゃごちゃとした真っ暗なセットという対照的なものにして、その2つが回り舞台の表と裏になっている。さらに、ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナという若い人間の恋人たちと対にするため、オーベロンとティターニアに仕える妖精たちも、オーベロンにはイケメン風の男の妖精、ティターニアには戯曲とは異なる女の妖精という設定にしている。お供の妖精たちも、人間の恋人同士がおさまるべき相手と結ばれた後の5幕1場では、カップルを見つけて踊り出す。

新国立劇場『夏の夜の夢』こうして完全なシンメトリーとなっている世界に混乱をもたらす存在として、妖精パックと機屋のボトムが登場する。とりわけパックの描き方は印象的だ。もちろん他の『夏の夜の夢』同様にいたずら好きで快活な妖精として登場するのだが、演出のジョン・ケアードはパックが、この狂想の芝居の”影法師”で、決して物語の要素となる”登場人物”ではないという解釈をしている。そのため、パックはほかの妖精たちの踊りの輪には入れてもらえず、ひとり孤独に寂しげな表情を見せる。終幕、パックは回り舞台を自ら押してバックステージを観客に見せて”影法師”としての挨拶をして去っていく。

上記のようなしっかりした劇構造のうえに、村井国夫、麻実れいというスターの華やかさ、チョウソンハのしなやかでキレのある動き、神田沙也加の愛らしい歌などが組み込まれたことで、この舞台は新国立劇場の、そして日本のシェイクスピア上演としてのスタンダードといえるものに仕上がった。

新国立劇場の演劇部門にとって誰もが知っているシェイクスピアの名作が、レパートリーとなるような形で再演されたことは、日本の演劇界にとってエポックといえるかもしれない。ぜひ2,3年間隔で再演を続けていって欲しいプロダクションだ。

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