新国立劇場「アルゴス坂の白い家」

9/20(木)ー 10/7(日)
劇場=初台:新国立劇場・中劇場
評価:★★★★(VeryGood)9/22(昼)所見
●作=川村 毅
●演出=鵜山 仁
●出演=佐久間良子、小島 聖、李 丹、山田里奈、篠崎はるく、磯部 勉、有薗芳記、山中 崇、松本博之、中村彰男、石田圭祐、小林勝也
●美術=島 次郎
●照明=服部 基
●音楽=久米大作
●音響=上田好生
●衣裳=原まさみ
●ヘアメイク=宮内宏明
●演出助手=上村聡史
●舞台監督=北条 孝
●総合舞台監督=矢野森一
●芸術監督=鵜山 仁


 新国立劇場開場10周年の節目にあたる2007/2008シーズン、4代目の芸術監督に就任した鵜山仁の企画第1弾は、ギリシャ悲劇をモチーフにした「三つの悲劇」三部作を一挙上演。ギリシャ悲劇に登場するクリュタイメストラ、アンドロマケ、アンティゴネの3人を取り上げ、母・妻・娘という女性の3つの側面を異なる作家・演出家で描き、ギリシャ神話の世界と現代日本との衝突から新しい物語を展開していく。
 その3作連続上演の第1弾「アルゴス坂の白い家」は川村毅が、アトレウス家の悲劇を現代日本の芸能一家におきかえた物語を、芸術監督の鵜山自ら演出した。
 物語は劇作家島岡が、ギリシャ悲劇をモチーフにした新作舞台を作ろうとする話と、彼が描く芸能一家アトレウス家の物語の二重構造で出来ているが、この二つは境界が曖昧なまま進む。その橋渡し役になるのが、島岡が劇作とギリシャ悲劇について教えを請う古代ギリシャの劇作家エウリピデスだ。さらに、劇中劇の登場人物であるクリュタイメストラも、自らに与えられた悲劇の役どころについて意識的である。さらに劇中劇で展開されるトロイ戦争は、その外にある新宿の高層ビルへのテロ攻撃とも連鎖反応を起こし、人類にとって戦争のもつ意味をも問いただしてくる。
 物語が進むにつれ、クリュタイメストラをはじめとするアトレウス家の人びとは互いを殺し合う理由を見失い、長年演じ続けた悲劇に身を任せることが出来ず、報復の連鎖を断ち切って新しい運命を自ら切り開いていく道を選ぶ……。
 川村の台本は、かつての第三エロチカで取り上げたような映画と監督、そして女優が出てくる、映画にまつわる追憶の劇というものに近いものだ。こういった作品を新国立劇場で鵜山演出というところにぶつけてくるのが、川村らしい。
 冒頭のミュージカルシーンが若干長すぎたり、対立するクリュタイメストラとエレクトラが突然エウリピデスの「エレクトラ」の台詞を語り出すのがわかりづらいなど、いくつか難点はあるものの、演出の鵜山はアトレウス家の家庭劇というところに焦点を置いて、解体された悲劇という難しい構造の舞台をうまくまとめ上げることに成功した。
 主演者では、第三エロチカを退団後、十数年ぶりに川村作品への出演となった有薗芳記が光っている。エロチカ時代にやっていた特異な動きを見せるなど、かつてのエロチカを知るものが見れば、有薗が楽しんでやっていることがひと目でわかる。
 美術の島次郎は、アトレウス家を象徴する白い家をまっ白な小さな書き割りで表現して、既成の悲劇に頼ることの出来ない登場人物たちをイメージさせる。それにしても、アトレウス家の床に敷かれた巨大な毛皮の敷物はさぞかし制作にお金がかかったことだろう。

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