6月末に発表された新国立劇場演劇部門の次期芸術監督の選出方法をめぐって、演劇界から異議をとなえる声が上がっている。14日には、井上ひさしや蜷川幸雄ら演劇関係者12人と日本劇作家協会、日本演出者協会、国際演劇評論家協会日本センターの3団体が芸術監督の選定の経緯を明らかにするよう求める声明を出した。
 同劇場運営財団(遠山敦子理事長)は、昨年9月に就任した演劇部門の芸術監督の鵜山仁の後任として、6月30日に演出家の宮田慶子を2010年からの芸術監督として発表。しかし、鵜山の一期かぎりでの交代や就任1年目での交代の発表について、財団の一部理事や演劇関係者から疑問の声が上がっていた。




 14日の記者会見には、劇作家協会会長の坂手洋二、日本演出者協会理事長の和田喜夫、国際演劇評論家協会日本センター会長の西堂行人、劇作家の井上ひさし、演出家の木村光一、蜷川幸雄、劇評家で新国立劇場評議員の大笹吉雄が出席。声明では、次期芸術監督について、最初から鵜山が退任し後任に宮田がなるとのシナリオが、新国立劇場制作部サイドから関係者に提示されたこと、理事会での選考が遠山敦子理事長に一任となったことを問題視。財団のやり方を「芸術監督制度と芸術家を著しく軽視する行為」として抗議するとともに、選定手続きの過程を明らかにするよう求めている。 
以下が14日に発表された声明文。


       芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明
 新国立劇場運営財団は6月30日、オペラ、舞踊、演劇の次期蓑術監督を発表しました。
 演劇については、「6月23日甲理事会では鵜山監督の続投を主張する声もあったが、遠山敦子理事長に一任となった」と、報道されていますが、採決が不可能だった理事会の審議過程そのものを問題視する意見が出ています。また、芸術監督の選任について、選考委員会に差し戻すこともなく、なぜ理事長に一任するという異例な結果になったのかも不明瞭なままです。
 7月1日付読売新聞、7月7日付朝日新聞、7月8日付毎日新聞でも指摘されているように、財団執行部が進めた今回の芸術監督交代については、各方面から疑問の声が上がっており、選考委員会、理事会で正常に検討、議決されたとは思えません。
 芸術監督選びのプロセスを曖昧にしようとする財団執行部のやり方は、芸術監督制度と芸術家を著しく軽視する行為であり、決して見過ごすことはできません。私たちは、ここに強く抗議するとともに、今後このようなことが繰り返されないためにも、芸術監督選定の手続を明らかにすることを要求します。
                            2008年7月14日
井上ひさし 大笹吉雄 小田島雄志 木村光一 坂手洋二 佐藤信 沢田祐二
永井愛 蜷川幸雄 ペーター・ゲスナー 別役実 松岡和子
日本劇作家協会 日本演出者協会 国際演劇評論家協会日本センター


 また、当日は私用で参加できなかった永井愛が、新国立劇場運営財団の理事として出席した理事会の様子を以下のようなメモにまとめて配布された。
芸術監督予定者をめぐる理事会でのやりとり
                        2008年7月14日 永井愛
 新国立劇場運営財団の理事として6月23日の理事会に出席しました。
私は決して、宮田慶子氏が芸術監督に不適任だと主張しているのではなく、情報を操作してまで、鵜山現監督の再任を阻止しようとした理事長サイドのやり方に強い疑問を持っているのです。情報の外におかれているという意味では、宮田氏も被害者の一人ではないでしょうか。
 経緯を知っていただくために、第3号議案(次期芸術監督予定者の選考)の議論の要点をまとめたのが以下のやりとりです。当日のメモから,発言内容、発言順はこのようだったと記憶していますが、言葉はそのままではありませんし、間違いが含まれている可能性もあるため、財団には是非、詳細な記録を公開していただきたいと思います。
 (▼財団執行部 ▽理事、理事の名前は一部イニシャル)
  霜鳥秋則常務理事が次期芸術監督候補の3人を発表
▽沢田祐二理事(舞台照明家) 宮田さんが選出された経過をもっと詳しく話してほしい。
▼霜鳥常務 鵜山さん本人と話した。本人も最初から1期のつもりだった。小田島氏をはじめ、宮田さんを推す委員が多かった。
▽沢田理事 鵜山さんのような才能はそう滅多にいない。ここで辞めるのはあまりにも短く惜しいし、芸術家の使い方としてどうなのか。何とか続投してほしい。
▽永井 いつ鵜山さんとの話し合いが行われたのか?
▼霜鳥常務 あまり記憶にないが、3〜4カ月前だと思う。
▽永井 続投の意志があるかどうか、確認したか?
▼霜鳥常務 次期は宮田さんで動いていると言ったら、「それはいいじやないか」という返事だったので、続投の意志はないと判断した。
▽永井 私も霜鳥さんから呼び出された際(6月20日)に「鵜山さんに続投の意志なし」「宮田さんの名前は事務局からではなく、選考委員から上がった」と説明された。「宮田さんを最も強く推した人は誰か」と聞くと「小田島さん」とのことだった。しかし、昨日(22日)小田島理事に電話したところ、次のように話していた。小田島氏=「選考委員会に出られないため、電話で霜鳥さんに鵜山さんの続投を第一案として推した。が、『鵜山続投はあり得ない。事務局で用意しているのは宮田さん』と言われ、それなら宮田さんと言ったが、(誰か)ワンクッションおきたいとも言った。今でも鵜山続投が自分にとっての第一案。これは理事会で言ってくれてもいい」
 また鵜山さんにも電話で確認したところ、事務局側から続投する気があるかどうかの打診は正式には受けておらず、従って、「続投の意志はない」などの返事はしていない、ということだった。だが、選考委員会でも、この理事会でも、霜鳥氏はまず「鵜山本人に続投の意志なし」「小田島氏が宮田さんを推した」と説明する。それはなぜか? 選考委員会では、他にも鵜山再任を希望した選考委員がいたが、「鵜山さんに続投の意志なし」と聞かされて、他の候補をあげたと聞いている。あやふやな情報を前提に開かれた選考委員会は、有効なのか?
▼遠山理事長 選考委員会は粛々として行われた。全く問題ない。
▽永井 次期芸術監督の就任に伴う、制作者の権限強化について質問したい。(6月8日に)中島豊チーフプロデューサーに呼ばれ、2011年秋に新作を書いて欲しいと言われた。その時の芸術監督は誰かと聞くと、中島氏は「鵜山さんではない」と言った。芸術監督が決まらないうちに新作の依頼を受けたのはなぜか? 制作が芸術監督の判断抜きにレパートリーの選定に動いているのか? もしくは、理事会の議決を得ないままに、次期芸術監督候補者と制作がもうレパートリーに着手しているのか?
 面会した際、中島氏は「今後、芸術監督が若くて経験の足りない人がなる場合が出てくる。とんでもないレパートリーを主張されたりしたとき、制作も投票権のようなものを持ち、芸術監督の提案にNOと言えるようにする」とも言っていた。制作が発言権を強め、多数決でプログラムを決定するなど、合議制としての色合いが強くなった場合、レパートリーや上演の評価について誰が責任を負うのか?
▼霜鳥常務 制作が発言権を強めるのは、何も拒否権を使おうというようなことではない。 これまで芸術監督との話し合いが不十分だったこともあるので、より積極的に提案し、サポート体制を強化する。話し合いの場を作るということ。最終的には芸術監督が責任をとる。
▽永井 中島プロデューサーは投票権のような例を出した。話し合いの場を作るだけなら、こんな言い方はしないはずだ。教えてほしい。私は2011年の新作をいったい誰から依頼されたのか?
▼遠山敦子理事長 個人的な話をすべきではない。
▽A理事 気持ちはわかるが、正規の選考委員会が開かれ、選考が行われた以上、それを尊重すべきだ。
▽永井 間違った情報を元に開かれた選考委員会に疑問を持っているのだ。
▽B理事 明日の(次期監督発表の)記者会見は必ず開かなくてはならないのか? 自分はこのままでは議決をどうしたらいいか迷う。委任状を出した人も、今日の議論は聞いていないわけだから、委任したとは言えないのではないか?
▼霜鳥常務 いや、委任状は有効だ。
▽永井 顧問制度について聞きたい。理事長への助言者として3人の名前を聞いたが、制作が発言権を強めたり、次期芸術監督の元では劇場が大きく変わる。そのプロセスが不明瞭なのは納得できない。
▼遠山理事長 時間がない。今出た意見に対しては、こちらとして対応するので、第3号議案を議決したい。
▽永井 議決を先にするのはおかしい。
▽D理事 こういうことは、後にしこりを残さない方がいい。選考委員会をやり直すこともできるのではないか。もちろん、理事長にご判断はゆだねるが。
▼遠山理事長 では、第3号は議決せず、明日の記者会見でも発表しない。どう対応したかは、各理事に報告するので、やり方はこちらに一任してほしい。
▽永井 選考委員に情報を開示した上で再度意見を聞くということはあるのか?
▼遠山理事長 そういう可能性もあるが、一任してほしい。この件については、内々にしておいてほしい。
【補足】
(1)6月8日に面会した際、中島チーフプロデューサーは、財団側に、小田島雄志、鈴木忠志、山崎正和の3氏を理事長の顧問(アドバイザー)とてして迎える考えがあることを話した。財務省や文化庁への影響力を期待しているとのことだった。〔現在まだ小田島氏は依頼されていない〕
(2)6月20日に霜鳥常務に面会を申し込まれた際、制作の発言力強化についてたずねると、「制作部が芸術監督に対し、これまでより積極的に発言や提言を行う。芸術思督が独裁的になったり、暴走されたりすると制作陣はやりにくい。こうした体制の変更は理事会にかける必要はないと思つている」との答えだった。
(3)6月27日に霜鳥常務に面会を申し込まれた。同席した三田村晴夫制作部長に「2011年の新作依頼は中島が独断でやったこと。私には一切連絡がないし、指示した覚えもない。改めて、この依頼は白紙にしたい」と言われた。芸術監督の件について霜鳥常務は「その後、思い出した。鵜山さんには3月に、新しい芸術監督を決めるという話をしていたのだった。そもそも、芸術監督選考に、鵜山さんの意思確認は必要ないことですし・・・」と話していた。
■疑問と問題点
(1)様々な関係者からの話を聞くと、選考委員会では、鵜山氏の再任を望んだ委員が3人程度はいたはずだ。しかし、鵜山氏自身に続投の意志がないということにされ、再任を推す声は排除された。その理由は何か。理事長サイドが主導権をとり過ぎてはいないだろうか?選考委員会も開かれない3月の段階で、霜鳥常務は鵜山氏に「後任は宮田さん」と話している。これも筋が通らない話だ。
(2)鵜山氏の仕事に対して評価が下されず、1年もたたずに交代を決めるのは、芸術家の「使い捨て」に思える。理事会を挟んで、鵜山氏に度々、自分からやめる形にするよう説得した執行部の意図にも疑問がある。
(3)鵜山氏を交代させる理由は「忙しい」とだけ聞かされた。しかし、バレエの次期監督は英国の劇場の芙術監督を兼ね、1年の半分以上は日本にいない。オペラの次期監督も、いくつもの役職を兼務したままでの就任になるといわれている。なぜ、鵜山氏の「忙しさ」だけが問題にされるのか?
(4)制作サイドの発言を強めるというのは、これまで芸術監督を中心に企画をたててきた劇場のシステムの大きな変更だ。しかし、この問題について、財団執行部はきちんとした説明をしていない。このまま、ずるずると水面下での話が進めば、誰が芸術監督に就任しようと、大変やりにくいことになる。永井への新作依頼について三田村制作部長は「中島の独断」と言うが、次期監督就任一年後の作品の話を、中島氏が勝手に進めたとは想像しがたい。
(5)顧問(アドバイザー)についても疑問は多い。いったい何をアドバイスするのか。芸術監督に直接ものを言わないとしても、理事長への「助言」が、発言力を強めた制作サイドに降りてきて、現場に影響を与えることにならないか。そうなれば、芸術監督の上にもう一人監督がいるのと同じことになる。芙術監督制度が骨抜きになってしまう。劇場の根幹を揺るがす、こうした問題はオープンな議論があってしかるべきなのに、執行部のやり方にはまったく透明性がない。

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