燐光群『京都から二千匹発送しました。』

劇場=梅ヶ丘:梅ヶ丘BOX
4/30(木)−5/17(日)
評価:★★★(Good)5/7(木)夜所見
●作=清水弥生
●演出=小山笑子
●芸術監督=坂手洋二
●出演=中山マリ、川中健次郎、鴨川てんし、杉山英之、小金井篤、阿諏訪麻子、安仁屋美峰、
伊勢谷能宣、いずかしゆうすけ、桐畑理佳、鈴木陽介、吉成淳一
●照明=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
●美術・音響=じょん万次郎
●音響協力=内海常葉
●舞台監督=猪熊恒和
●照明操作=武山尚史
●音響操作=樋尾麻衣子


 燐光群の新作は、昨年春に『シンクロナイズド・ウォーキング』で劇作家デビューを果たした劇団演出部の清水弥生の作品。アルバイトで介護の仕事をしているという清水の前作は、筋ジストロフィーで車椅子生活を送りながら簡易宿泊所を経営する女性と周囲の人びとの姿を描いたが、今回は中学校の部活中の事故で意識不明の重体になった娘とその両親が真実を明らかにしていく様子が描かれる。
 今回の作品で一番のポイントは、これが実際に起きた事故をもとにしているという点だ。それがこの作品の強さでもあり、弱さともなっている。
 実際に起きたことがもとになっているという点で、観客は舞台上で進行する話を追いつつも、常にこれが実際にあった出来事だという意識をもち、作品そのものの説得力プラスアルファのリアリティが与えられている。
 一方では、実際にあった事故を元に作ったことで、物語が事故にあった中学生の両親の視点を中心に展開され、さまざまな視点から物語が展開していった前作の『シンクロナイズド・ウォーキング』よりは平板なイメージとなってしまった。前作では、健常者と障碍者の両方の視点で物語が描かれたのだが、今回の弱者は意識不明で寝たきりになった少女と、彼女のいた中学で交通事故で亡くなった少女だ。これが仮にまったくのフィクションで作られたのであれば、そういった弱者も幻想として自身の視点をもたせることができたのだが、実際にあった事故をもとに関係者に取材をして作られたために、そうした創作が難しくなったのであろう。結果として、健常者からの視点がメインになってしまった。
 とはいえ、この作品は魅力的な舞台だ。なかでもタイトルの『京都から二千匹発送しました。』の秘密と、このメッセージの送り主が誰か、というところは創作か実際にあったことなのかは別として、非常におもしろい。
 燐光群=社会派というイメージが強いが、ある意味、坂手洋二以上にこの清水弥生は社会派といえるかもしれない。今後も1年に1本くらいのペースでじっくりと、健常者と障碍者の交わる姿をていねいに描いていって欲しい。

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