8月29日、新国立劇場は日韓国交正常化60周年記念公演『焼肉ドラゴン』の制作発表会見を行った。
鄭義信作・演出による本作は、10月7日より新国立劇場小劇場にて9年ぶりの上演を開始し、11月にソウルの芸術の殿堂での韓国公演、福岡、富山での全国公演を経て、12月19日~21日には作品史上初となる新国立劇場中劇場での凱旋公演が決定している。
『焼肉ドラゴン』とは?
『焼肉ドラゴン』は、1970年前後、高度経済成長と大阪万博に沸く関西の地方都市を舞台に、慎ましくも懸命に生きる在日コリアン一家と、彼らが営む焼肉店「焼肉ドラゴン」に集う人々の人間模様を描いた作品。韓国・芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)との共同制作で上演され、2008年の初演では口コミで大きな評判を呼び、東京・ソウル公演では連日スタンディングオベーションを巻き起こし、日韓両国で数々の演劇賞を受賞した。2018年には鄭義信自身の監督により映画化もされている。
オリジナルキャストが再集結、新たな顔ぶれも
会見には作・演出の鄭義信をはじめ、千葉哲也、村川絵梨、智順、櫻井章喜、朴勝哲、石原由宇、北野秀気、松永玲子、イ・ヨンソク、コ・スヒ、パク・スヨン、キム・ムンシク、チョン・スヨンが登壇した。また、ネットで募集された『焼肉ドラゴン』の熱心なファン150名が招待され、登壇者たちへの質問も寄せた。
今回の上演では、2008年初演時のオリジナルキャストである千葉哲也、コ・スヒ、パク・スヨン、キム・ムンシクが再びカムバック。また、これまで三度の上演すべてに出演し、映画版にも出演した朴勝哲(パク・スンチョル)も再び結集する。新たに参加するキャストには、村川絵梨、智順、石原由宇、松永玲子が名を連ね、いずれも鄭義信作品への出演歴がある実力派俳優陣が揃った。
一方の韓国キャストの新メンバーとしては、『ナビレラ』『マイ・ディア・ミスター』など日本でも人気の高いドラマに出演しているイ・ヨンソクが店主・金龍吉役を務め、韓国の伝統音楽パンソリを得意とする若手女優チョン・スヨンが三女・美花役を担う。
鄭義信「初心に戻ってゼロから新しい『焼肉ドラゴン』を作りたい」
作・演出の鄭義信は「初演の時には4回も公演するとは思っていませんでしたけど、皆様の後押しによって実現できたっていうこと、本当に嬉しく思っております。これまで基本的に脚本、演出は変えていないつもりですが、キャストが違ってるんで、そこに生み出されるコミュニケーションで、公演ごとに全く違う印象を与えると思っています。今回は韓国、日本の初演のメンバーがまた帰ってきてくれたので、もう1度初心に戻って、家族としてゼロから新しい『焼肉ドラゴン』を作り上げたいと思っております」と抱負を語った。
一方、記者からの質問で、多様性を否定するような排外主義的な考え方が世界中に広がるなか、『焼肉ドラゴン』を上演する意味について問われると、「この作品はオーストラリア、アメリカでリーディング作品として招聘されたことがありまして、その時にすごく驚いたのは、僕は日本の中の小さな在日の家族の話を書いたと思っていたんですが、海外では『これは移民の話ですね』って受け取られました。あ、そうかと気付かされまして、世界中どこでも移民問題や戦争があったり、そういう中で国を離れざるを得ない人々がいる。この作品を見て、それでもやっぱり人は生きていかなくちゃならないんだっていうメッセージ、希望を感じてもらえればほんとにありがたいです」と語った。
また、会見では、朴勝哲のアコーディオン演奏に合わせてチョン・スヨンが「ミルリア」という曲を披露するコーナーも用意され、『焼肉ドラゴン』の魅力を彩る劇中歌が優しくときに力強く歌い上げられる様子に会見に参加した作品のファンから惜しみない拍手が送られた。
以下、出演者たちのコメント。
千葉哲也
「14年ぶりの出演で、いくつになった哲夫だか分かりませんが、皆さんの足を引っ張らないように頑張りたいと思います。韓国人キャストの台本はハングルと日本語は両方書いてあって、だから台本の厚さが違うんですよ。自分もどうにか関西弁を覚えましたが、韓国人キャストが日本語をまるまる覚えるのは本当に大変だと思います。初演の時は台本には全然書かれていないことが、義信さんのアイデアでどんどん膨らんでいったので、そういった意味では再演、再々演と、ひとつの形はできてきたと思います。あとは年齢だけですね。頑張ります」
村川絵梨
「私は2016年バージョンを拝見していたんですけど、まさかまたやってくれるとは、そして私をこの一員に入れていただけるとはって、本当に嬉しくて。そしてキャストの皆さんを見た時に、初演のレジェンドの方がカムバックされているっていうのを見ても、本当に光栄な気持ちで、身が引き締まる思いです。昨日立ち稽古初日だったんですけど、もうセットが建っていて、初参加組としては本当にもうちょっと震える気持ちになりまして、本当に皆さんとんでもない熱量でして、負けずに挑んでいきたいなと今思っています」
智順(ちすん)
「初めてお話いただいた時は、絶対に嘘やと思いました。信じられなかったです。稽古が始まったら、うだうだ言っている暇はないなというくらい、皆さんのエネルギーがちょっと凄すぎまして、とにかく今は一生懸命食らいつこうという、そんな思いでございます。頑張ります」
櫻井章喜
「9年前に出演したときは本当に大量の涙と汗をだらだらと流し、大きな声で騒いで、歌って踊って、とにかく大変だったな、疲れたなっていうのがまず頭に真っ先に浮かびます。その時のメンバーもみんな大好きでした。今回の皆さんも本当に魅力的で、どんな家族に育っていくのかっていうことが今からほんと楽しみで仕方ありません」
朴勝哲(パク・スンチョル)
「『焼肉ドラゴン』への出演は映画も含めて皆勤賞なんですけど、記者会見に参加するのは始めてです(笑)。僕の役は『焼肉ドラゴン』っていうお店の中にずっといる常連客なんですけど、そこで見られる景色をすごく楽しみにしていて、僕もその中で生きているように楽しんでやっていきたいと思います」
石原由宇
「僕、デビュー作が鄭さんの書き下ろしの作品でして、また鄭さんの芝居のセリフを言わせてもらえることを、本当に嬉しく思っています。ただ、僕、バリバリの東京人でして、関西弁の芝居が初めてなもので、千秋楽までにはなんとか関西弁のアドリができるように頑張りたいと思います」
北野秀気
「(公募オーディションを経ての出演について)受かったという連絡をいただいたのは、公園でボーっとしてた時なんですけど、とりあえず滑り台3回滑りましたね。それくらい嬉しかったです。意気込みとしては、最年少なんですけど、誠心誠意、精一杯やらせていたいただきたいと思ってます」
松永玲子
「再演と再々演を客席で拝見して、雷に打たれたような衝撃を受けて終演後、しばらく立ち上がれなかったことを覚えています。そしてまさかの再々再演、出演依頼がやってまいりました。本当にこのタイミングでええ感じのおばはんになれていた自分を褒めたいと思います。おばはんになったからこそできるこの役があると思っております。誠心誠意3代目のおばさん、頑張ります」
イ・ヨンソク
「参加することが決まった時に、周りの演劇関係の知人や友人に話をしましたら、本当にみんなに羨ましがられました。それくらいこの作品は韓国でも伝説的な作品として知れ渡っています。本当に嬉しくてですね、夢を見ているような感じで、このオファーを受けさせていただきました。
この舞台の中では、韓国語と日本語の両方の言語が入り交じって公演が進みます。その2つが入り交じっていることに意味があるのではないかという風に思っています。父親役としてですね、どういう気持ちでこの作品の中の父親を表現していくか、これから悩んで作品に貢献していきたいと思います」
コ・スヒ
「韓国から参りましたコ・スヒです。ようやくコ・スヒが演じる焼肉屋が開店します。『焼肉ドラゴン』がオープンする日を皆さんきっと待ち望待ち望んでくださっていたと思います。14年という時間が流れたっていうことを感じないぐらい、この作品のことを体が覚えているような気がしています。その間、世の中は色々変わったと思います。私自身も年齢に合ったヨンシンという役の年を重ねていきたいと思っています。より深みのある母親、そしてより深みのあるドラマになっていくのではないかと思っています」
パク・スヨン
「初演は30代でした。そして再演は40代の時で、今回は50代で臨むことになっています。(千葉哲也演じる哲夫とのマッコリの飲み比べの場面について)マッコリに関してはですね、年々飲む量が減っております。ですが、頑張ってしっかり飲めるように今練習してます(笑)」
キム・ムンシク
「本当に長い時間が流れました。この作品に再び参加することができたというのは、本当にドキドキ、ワクワクするんですけれども想像もしなかったことでした。そのドキドキをちゃんと伝えられるように舞台を作り上げていきたいと思います」
チョン・スヨン
「美花という役は最善を尽くす、ベストを尽く人だと思います。そして、夢見る人だと思っています。彼女のキラキラしているその姿を作れるように頑張っていきたいと思います。皆さん、どうぞ見守ってください。私は父親がですね、焼肉屋を営んでいるので、日本の牛肉の焼肉屋さんとどう違うのか、それをちょっと比べに食べに行ってみたいと思っているのですけれども、昨日、演出の鄭さんから追加で2曲歌ってくれと言われたので、多分その練習をしなくてはいけないと思ってます」
当日の登壇者たちと会見に参加した『焼肉ドラゴン』のファンたち
公演情報
新国立劇場小劇場公演
日程:2025年10月7日(火)~27日(月)
会場:新国立劇場小劇場
料金:A席8,800円/B席3,300円/Z席(当日)1,650円
一般発売:発売中
凱旋公演
日程:2025年12月19日(金)~21日(日)
会場:新国立劇場中劇場
料金:S席8,800円/A席6,600円/B席3,300円/Z席(当日)1,650円
一般発売:2025年10月12日(日)10:00~
新国立劇場『焼肉ドラゴン』の公演情報はこちらから=>