広田淳一が語るアマヤドリ『銀髪』

インタビュー

 劇作家、演出家の広田淳一が主宰する劇団アマヤドリが、創立15周年記念公演シリーズの最後に代表作のひとつ『銀髪』を再演する。

 広田がアマヤドリの前身である劇団ひょっとこ乱舞を立ち上げたのは2001年、まだ広田が東京大学在学中のことだった。当初は同じ東大出身の野田秀樹や宮城聰などの役者の身体性にこだわった表現を目指していたというが、その後、現代口語演劇に刺激を受け、現代口語から散文詩まで扱う広田のテキストと、群舞やクラッピングなどもこなす役者たちの身体表現を組み合わせ、独自の表現スタイルを構築してきた。そうした中から成河といったユニークな役者も育った(2009年退団)。公演規模も王子小劇場から吉祥寺シアターと大きくなり、2012年には劇団名をアマヤドリと改称。そして今回、旗揚げから通算で15周年を迎えた記念公演シリーズの最後として初めて下北沢・本多劇場で公演を行う。
 今回の作品『銀髪』は2004年に初演、2007年に出演者を30名にするなど大幅に改定し再演した劇団の代表作だ。広田は今回の再演を決めるにあたり、過去2回の上演時にはいなかった若手の劇団員からやりたいと言われたことが決め手になったと語る。

【物語】大晦日の夜、脱サラして路頭に迷う維康(コレヤス)は、屋台のラーメン屋に突然あらわれた怪しげな男達に拉致される。その日から彼は、退屈な日常にささやかな混乱と不安をお届けするパニック専門のベンチャー企業「踝(くるぶし)コンドル」の一員となった。元帥・船場種吉(センバタネキチ)を中心にビジネスを展開する彼らは、様々な形式でパニックを売りさばき、やがて国民的支持を得て巨大企業へとのし上がっていった。苛烈な反対運動にも関わらず次第にエスカレートしていく狂乱の中、ついに彼らの社運を賭けた一大イベント、「ノストラドン」が始動する——。

アマヤドリ『銀髪』は、1月26日(木) ─ 31日(日)下北沢本多劇場で上演。
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■『銀髪』が生まれた経緯
旗揚げメンバーが一度劇団から離れて、再びパワーアップして集まったときに、もう一度役者それぞれと出会ったような気がして、その化学変化から生まれた作品だと語る広田。またある集団が成長してやがて滅んでいくという、前回公演の『月の剥がれる』でも扱ったテーマを最初に取り上げたものでもあるという。


■15周年記念公演シリーズの最後に取り上げた理由
初演のときには劇団のパワーを再確認し、再演の時には、吉祥寺シアターに初進出したときに取り上げていて、劇団の節目に当たるときに取り上げた作品。その意味では本多劇場へ初登場ということでも合っているという広田。また、今回、過去2回の上演時にはいなかった若手の劇団員がこの作品をやりたいと言ったことも後押ししてくれたと語る。


■今回本多劇場に出る意味は?
かつての「小劇場すごろく」のもつ意味は薄れてきているけれど、本多劇場はまだ物語性を持っていて、やる側も観る側もモチベーションがあがるスペシャルな劇場。創立15周年という機会にいい意味で背伸びしてみたと広田は語る。


■今回、初演や再演と比べて変えたところは?
初演では「パニックビジネス」という仕事を行うベンチャー企業の話として10人前後の芝居だったものを、再演ではその集団に対抗する集団も出して30人もの大がかりなものに作り替えた。今回の三演では船場種吉という主人公の個人史が物語の主軸と絡んでいく部分の必然性をさらに高めたものにしているという。


■登場人物のネーミングは?
広田作品はいつも登場人物のネーミングがユニークだが、今回の作品でも船場種吉、茅場海老蔵、歌川フジ磨といった変わった名前がつけられている。これらはどういう発想でつけているのか?


■物語の核となる「パニックビジネス」について
現実にありそうで実際にはない題材を物語の軸に据えることが多い広田作品。『銀髪』に登場する「パニックビジネス」もそのひとつだが、こうしたユニークな設定はどこから出てくるのだろう?


■再演にあたってトランプ人気などポピュリズムの台頭は意識した?
『銀髪』ではパニックビジネスで人々するさまが描かれるが、現在のトランプ人気など、大衆を扇動するようなポピュリズムが台頭していることも意識して、今回再演を決めたのか? この問いに対し広田は、冷静な視点で現在の世界は「熱狂が生まれにくい」状況だと見ていると語る。


■平和について冷静な視点で考える
前回公演『月の剥がれる』ではウイグルで政治的抗議のために焼身自殺をする人々を念頭に、“自国の軍隊が人を殺したら自分たちも同じ数の自殺をする”という過激な平和集団が描かれている。広田の平和についての視点はどういうものなのか?


■稽古場での役者とのディスカッションについて
役者と稽古を進めると、うまくいかない場面について役者とディスカッションを重ね、どうすればいいのかを一緒に議論する広田。その狙いはどこにあるのだろう?


■現代口語演劇の影響
同時発語するタイミングの指定を記号で指定するといった台本の書き方や、稽古場で演出助手をつけずにノートPCを見ながらその場で演技の注意点を書き込むなど、広田の演劇は現代口語演劇の影響が色濃い。これは直接、間接に青年団─平田オリザの刺激を受けた結果だという。


■若手の演出家たちについて感じたこと
劇団創立15周年ということで、以前は“若手”と呼ばれていた広田も、最近では後進の育成などに関わることが増えてきた。最近では昨年末に王子小劇場の「第5回ディレクターズワークショップ」にファシリテーターとして参加したが、自分たちの若い頃と比較して、今の若手演劇人はどう写ったのだろう?


■これから先15年間に目指したいこと
劇作家としては冒険を出来る最後の時間なので、時間をかけてちゃんと質の高い作品を作っていきたい、という広田。カンパニーとしては日本の演劇界の歴史のなかで、ある種の養分になるような形の活動ができればいいと語る。


■今後の予定について
本多劇場での『銀髪』公演後には、2月下旬に福岡のぽんプラザホールで開催されるキビるフェスに『ロクな死にかた』で参加(2/24〜26)。その後の予定はまだ詳細は発表できないが、ツアー公演や秋には新作でロングランもやりたいと語る。


取材:ステージウェブ編集部

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