2026年3月26日、彩の国さいたま芸術劇場にて「2026年度ラインナップ発表会」が開催された。登壇したのは、埼玉県芸術文化振興財団の林直樹理事長と、就任4年目を迎える近藤良平芸術監督である。
2024年に開館30周年と大規模改修を経てリニューアルオープンを果たした同劇場は、現在、新たな歴史の1ページを着実に刻んでいる。2026年度は、劇場の核となる「彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd」が深化を見せるだけでなく、埼玉会館の創立100周年という大きな節目が重なる。地域と世界、過去と未来が交差する「クロッシング」のテーマは、より強固なものへと進化した。
近藤監督は、今年度のラインナップを「メニュー仕立て」と表現した。「芸術という美味しい料理を、全メニュー制覇してほしい」と語るその表情には、公共劇場のトップとしての責任感と、一表現者としての純粋な高揚感が同居していた。
劇場の社会的意義と「カンパニー・グランデ」が示す未来:林理事長による総括
会見の冒頭、林理事長は2025年度までの歩みを振り返り、劇場のブランド資産の重要性を説いた。
リニューアル後の大きな成果として挙げられたのが、吉田鋼太郎氏が率いる「彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd」である。故・蜷川幸雄氏の精神を継承しつつ、吉田氏独自の視点で古典を現代に蘇らせる本シリーズは、2026年5月に没後10年を迎える蜷川氏への最大のオマージュとも言える。
また、林理事長が「新たな劇場の柱」として高く評価したのが、近藤監督が立ち上げた「カンパニー・グランデ」だ。年齢、国籍、障害の有無を問わず、100名を超える多様な人々が舞台を作り上げるこの取り組みは、単なる市民参加型プロジェクトの枠を超えている。「2年間の対話とワークを通じて、互いの違いを認め合うことで生まれたハーモニーは、技術的な完成度とは別の次元で観客の心を震わせた」と、その芸術的・社会的意義を強調した。
さらに、劇場を「特別な場所」から「日常の延長」へと変えるアウトリーチ活動(ミート・ザ・ミュージック、ミート・ザ・ダンス)も拡大。年間延べ2万6000人以上が参加するこれらの事業を通じ、次世代の観客と表現者を育てる土壌を耕し続けている。
待望の第2期始動。「カンパニー・グランデ」が目指す次の地平
近藤監督が就任時から掲げるキーワード「クロッシング」を最も象徴するのが「カンパニー・グランデ」である。第1期の集大成公演『春の祭典』での成功を受け、いよいよ第2期のメンバー募集が2026年4月から開始される。
「手応えは、むちゃくちゃあります」と近藤監督は語る。「第1期では16歳から83歳までが参加した。人は急には変われないが、2年という時間をかけて一緒に汗を流し、言葉を交わす中で、舞台上での『居ずまい』が変わっていく。そのプロセスそのものが芸術なのだ」と、長期的な育成への自信を見せた。第2期は、2027年2月のワーク・イン・プログレスを経て、2028年1月の本公演へと向かう。
演劇:吉田鋼太郎×長塚圭史、最強のタッグによる『リア王』
演劇部門の目玉は、5月に上演される彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』長塚圭史を迎える。 「鋼太郎さんと長塚さんという、強烈な個性を持つ二人がぶつかり合うことで、古典の枠組みを壊し、新たな命が吹き込まれるはずだ。間違いなく、今シーズンのハイライトになるだろう」と近藤監督は期待を寄せる。
また、11月には吉田鋼太郎演出による『間違いの喜劇』を上演。これは県内の高校生を招待する鑑賞事業も兼ねており、演劇の楽しさをストレートに伝える。さらに、英国のトップ劇場の舞台をスクリーンで楽しむ「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)」の共催も発表され、世界の演劇トレンドをさいたまから発信する姿勢を鮮明にした。
ダンス:16年ぶりの「再会」と30年目の「進化」
ダンス部門は、世界的なマスターピースの招聘が相次ぐ、極めて贅沢な布陣となった。
特筆すべきは、ベルギーの至宝アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル率いる「ローザス」「ホフェッシュ・シェクター・カンパニー」16年ぶりとなる。 ローザスの新作『和声と創意の試み』は、ヴィヴァルディの《四季》をテーマに、環境問題への示唆を孕んだ詩的な作品。一方、ホフェッシュ・シェクターの『Theatre of Dreams』は、13名のダンサーが放つ圧倒的な身体エネルギーと生演奏が融合する。「これほどの影響力を持つアーティストが再び埼玉を選んでくれたことは、劇場の国際的な評価の証でもある。この機会を逃さないでほしい」と近藤監督は熱弁を振るった
。
また、近藤監督自身が主宰するコンドルズは、結成30周年記念作品『ALL YOU NEED IS LOVE』を6月に上演する。「30年経っても守りに入らず、直球の愛を持って進化し続けたい」と、その意気込みを語った。
音楽:バッハの神髄と、既成概念を打ち破る鬼才たち
音楽ホールでは、アコースティックな響きを活かした重厚なプログラムが並ぶ。
世界的ピアニスト、ピエール=ロラン・エマールによる「バッハの《平均律クラヴィーア曲集 第2巻》全曲演奏会」は、12年前の第1巻演奏会からの歴史を補完する重要な一夜となるだろう。 また、型破りなスタイルで知られるヴァイオリニスト、パトリツィア・コパチンスカヤとチェリストのソル・ガベッタによるデュオも注目だ。「彼女たちの演奏は、音楽の概念を拡張する力がある」と近藤監督が語る通り、スリリングな対話が期待される。
バッハ・コレギウム・ジャパンによる『ミサ曲 ロ短調』、ジャン・チャクムルのリサイタルなど、クラシックの本質を突く公演も充実している。
埼玉会館100周年:渋沢栄一が遺した「民の力」を未来へ
2026年度、もう一つの大きな軸となるのが埼玉会館の創立100周年である。
1926年、渋沢栄一の尽力と県民の寄付によって誕生したこの会館は、日本の公共文化施設の先駆けとして歩んできた。記念事業は、同館がロケ地となった映画『砂の器』の上映会を皮切りに、建築フォーラムや歴史展示など多岐にわたる。 「100年前の県民たちが、自分たちの力で文化の拠点を作ろうとした情熱を再確認したい」と林理事長。例年は芸術劇場で行われる「オープンシアター」も、今年は埼玉会館で開催され、親子3代で親しまれる会館の歴史を祝う。
劇場の「日常化」へ向けて
質疑応答で、監督就任からの手応えを問われた近藤監督は、間髪入れずに「むちゃくちゃあります」と応じた。 「以前よりも、多様な人々が劇場を『面白がって』訪れてくれるようになった。障害のある方、子供たち、地域の人々。舞台を観るだけでなく、自ら表現する側になる。その循環が生まれつつある」と、劇場の風通しが良くなったことを実感しているという。
「美味しいフルコース」は、単に高級な料理を並べることではない。訪れる一人ひとりが自分の好みの味を見つけ、満足して帰る。そしてまた明日、劇場に行こうと思える。そんな「日常の中の劇場」を目指し、さいたまの二つの拠点は新たな100年への一歩を踏み出した。
【2026年度 彩の国さいたま芸術劇場・埼玉会館 主要ラインナップ一覧】
| ジャンル | 開催期間 | 公演名・プログラム | 会場 |
|---|---|---|---|
| 演劇 | 2026年5月5日(火祝)〜24日(日) | 彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| 演劇 | 2026年5月27日(水)〜31日(日) | NTLive『欲望という名の電車』 | さいたま芸術劇場 映像ホール |
| 演劇 | 2026年8月5日(水)〜9日(日) | NTLive『インター・エイリア』 | さいたま芸術劇場 映像ホール |
| 演劇 | 2026年11月 | 吉田鋼太郎演出『間違いの喜劇』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| 演劇 | 2026年11月19日(木)〜23日(月祝) | NTLive『ハムレット』 | さいたま芸術劇場 映像ホール |
| 演劇 | 2027年1月8日(金)〜15日(金) | [提携] 南極 本公演 | さいたま芸術劇場 小ホール |
| ダンス | 2026年6月12日(金)〜14日(日) | コンドルズ『ALL YOU NEED IS LOVE』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| ダンス | 2026年6月19日(金)〜21日(日) | ローザス、アトラファイブ『和声と創意の試み』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| ダンス | 2026年7月18日(土)〜19日(日) | おどる絵本『みえるとか みえないとか』 | さいたま芸術劇場 |
| ダンス | 2026年7月25日(土)〜26日(日) | Noism0+Noism1『私は海をだきしめていたい』/改訂版『春の祭典』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| ダンス | 2026年8月8日(土) | 『レオの小さなトランク』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| ダンス | 2026年9月 | [提携] 彩芸ブロッサム 隣鄰(橋本真那・朱柔欣) | さいたま芸術劇場 |
| ダンス | 2026年10月23日(金)〜25日(日) | ホフェッシュ・シェクター・カンパニー『Theatre of Dreams』 | さいたま芸術劇場 大ホール |
| ダンス | 2027年2月6日(土)〜7日(日) | カンパニー・グランデ 成果発表公演 | さいたま芸術劇場 小ホール |
| ダンス | 2027年2月27日(土)〜28日(日) | [提携] 貞松・浜田バレエ団『Kamuyot』 | さいたま芸術劇場 |
| ダンス | 2027年3月 | [提携] lal banshees / 横山彰乃 新作 | さいたま芸術劇場 小ホール |
| 音楽 | 2026年5月10日(日) | NHK交響楽団(指揮:リオ・クオクマン/ピアノ:萩原麻未) | 埼玉会館 大ホール |
| 音楽 | 2026年7月20日(月祝) | バッハ・コレギウム・ジャパン《ミサ曲 ロ短調》 | さいたま芸術劇場 音楽ホール |
| 音楽 | 2026年10月27日(火) | パトリツィア・コパチンスカヤ&ソル・ガベッタ デュオ | さいたま芸術劇場 音楽ホール |
| 100周年 | 2026年5月9日(土) | 映画『砂の器』上映会 | 埼玉会館 |
| 100周年 | 2026年10月31日(土)〜11月7日(土) | 埼玉会館100年博 | 埼玉会館 |
| 100周年 | 2026年12月19日(土) | 埼玉会館オープンシアター | 埼玉会館 |
※会場表記のないプログラムの詳細および最新情報は、各施設の公式サイトをご確認ください。 [1-3]





