劇場=初台:新国立劇場・中劇場
10/27(火)−11/23(月・祝)
評価:★★★★★(Excellent)10/18(水)夜ほか所見
●作=ウィリアム・シェイクスピア
●翻訳=小田島 雄志
●演出=鵜山 仁
●出演=中嶋朋子、村井国夫、木場勝己、上杉祥三、木下浩之、浦井健治、渡辺 徹、ソニン、中嶋しゅう、立川三貴、鈴木慎平、金内喜久夫、勝部演之、岡本健一、水野龍司、久野綾希子、今井朋彦、菅野菜保之、鈴木瑞穂、吉村 直、青木和宣、渕野俊太、浅野雅博、石橋徹郎、城全能成、篠原正志、川辺邦弘、津村雅之、内田亜希子高橋郁哉、那須佐代子、小長谷勝彦、清原達之、関戸将志、小田 悟、松角洋平、古河耕史、前田一世


 新国立劇場の鵜山芸術監督にとって最後のシーズンは、シェイクスピアの歴史劇『ヘンリー六世・三部作』の一挙上演という大作で幕を開けた。このシーズンで、鵜山が自ら演出をするのはこの作品だけであり、3年間にわたる芸術監督としての掉尾を飾るにふさわしい大型企画を実現させている。
 鵜山は芸術監督就任1年目はギリシャ劇をモチーフにした新作、2年目は演劇についての演劇というテーマで近代劇を取り上げたが、最終年である今シーズンは「人はなぜ戦うのか」というテーマを設定。そのシーズン開幕に満を持してシェイクスピアの『ヘンリー六世・三部作』をもってきた。
■演劇の醍醐味を堪能する至福の9時間
 シェイクスピアの歴史劇といえば、人物の名前と家系図をにらめっこしながらというイメージがあるが、今回の舞台を観て驚くのはとても分かりやすいということ。それは、当然ながら人物の造形がしっかりできているということでもあるが、そのために、完全上演とはいいながらも戯曲に書かれたせりふの中で分かりづらいせりふをカットしているなど、細かい配慮を積み重ねた成果である。このおかげで、三部作をどこから観ても単独の舞台として楽しめることに成功している。
 物語は第1部のヘンリー五世の葬儀から始まるが、鵜山は王の玉座がゆっくりと倒れる象徴的なシーンで幕を開けた。そしてこの玉座が今回の『ヘンリー六世・三部作』のすべてを物語っているともいえる。それは、とてもか細い灰色の骨組みだけの椅子で、なんらの地位も名誉も感じさせることのない空虚なものでしかない。さらには玉座が置かれている大地ーフランスとイギリス、またイギリスのヨークとランカスターが敵味方入り乱れて戦い、征服しようとした領地もまた、なにひとつ実りをもたらすことのない灰色の荒野である。戦いで手に入れられるのは、みすぼらしい玉座と灰色の王冠、そして草の木一本すら生えない荒野でしかないのだ。第3部は、ヨーク家のエドワードが薔薇戦争に勝利を収め、イングランド国王になるところで終わるが、背景に広がる青空は一見、平和の訪れを告げるかのようだが、書き割りの不自然な青空と雲は、この平和が束の間の茶番に過ぎないことを訴えている。
 出演者の中ではリチャードを演じた岡本健一が、なんらメイクなどに手を加えていないのに奇っ怪な容貌のイメージを作り上げて、ギラギラした野心を抑えきれない悪漢を見せて出色の出来。ほかにも、上杉祥三がグローブ座カンパニー以来、久々のシェイクスピア劇で水を得た魚のように芝居を演じているのも楽しい。
 また今回、劇場制作側が、新国立劇場開場以来といっていいほどの、力を入れた活動を行っているのも注目される。劇場ロビーでは関連書籍が豊富に用意され、グローブ座の復元模型や、過去の新国立劇場でのシェイクスピア劇の舞台装置の模型、百年戦争から薔薇戦争への歴史年表と人物相関図など、休憩時間だけでは見終わらないくらいの展示が行われている。この2年間、芸術監督問題で揺れた新国立劇場が、鵜山芸術監督最後の演出作品に汚名返上とばかりに意気込んだ成果は、休憩時間のロビーに行き交う観客の賑わいに現れたと言えるだろう。

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