今、演劇界が注目する女性劇作家・演出家のひとり、瀬戸山美咲がオフィスコットーネプロデュース『埒もなく汚れなく』を手掛ける。実際に起きた事件や実在の人物を取り上げた舞台を作ってきた瀬戸山の新作は、関西で活動した劇作家・大竹野正典の作品を劇中に取り入れながら、大竹野自身の生涯を描くユニークな作品だ。

 セルプロデュースユニット、ミナモザを主宰し、作・演出を務める瀬戸山美咲。その作品は、振り込め詐欺集団に紛れこんだ女性を描いた『エモーショナルレイバー』、福島第一原子力発電所の立ち入り禁止区域に自ら足を運んだ体験をもとにした『ホットパーティクル』、生の実感を得るために海外の傭兵部隊に参加する日本人青年を描いた『WILCO』など、常に日常生活のすぐ横にある危機的状況に身を置いた人間を描いて注目を集めている。なかでも、パキスタンで起きた日本人大学生誘拐事件を取り上げた『彼らの敵』は、昨年の読売演劇大賞・優秀作品賞を受賞している。最近は、原発事故を扱ったドイツの小説を舞台化した『みえない雲』や、外部公演で向田邦子原作の『阿修羅のごとく』の台本を担当するなど、さまざまなタイプの作品も手掛け、活躍している。

 今回、瀬戸山が描く大竹野正典は、関西で犬の事ム所、くじら企画を主宰。『夜、ナク、鳥』でOMS戯曲賞佳作を受賞、また岸田戯曲賞最終選考作になるなど、注目されていたが、2009年不慮の事故で亡くなった劇作家だ。ここ数年、オフィスコットーネの綿貫凜プロデューサーがその作品を精力的に取り上げて東京の演劇ファンにも知られるようになってきたが、今回はその代表作『山の声』(2010年第16回OMS戯曲賞大賞受賞)を劇中に取り入れながら、大竹野の生き様を描いていく。

オフィスコットーネプロデュース『埒もなく汚れなく』は、6月1日(水) ─ 12日(日)下北沢シアター711で上演。
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■今回の作品に関わることになった経緯
以前からオフィスコットーネの綿貫プロデューサーと一緒に仕事をしようと話していた瀬戸山だが、具体的にピンとくる題材が見つからずに実現しないままでいた。そんなある日、綿貫から「大竹野さん自身のことを舞台化しない?」と言われて、その瞬間に自分もやりたいですと即答した、という。


■大竹野夫人など関係者への取材
プロデューサーとともに大竹野が活動していた関西に出向き、関係者20名ほどに取材した瀬戸山。今回の作品は基本的には自分のフィルターを通した大竹野を描いているが、日常生活の細かい部分などに絶対創作では思いつかないことがあり、そういう部分で取材で知った内容を反映させているという。


■キャスティングについて
今回の出演者は大竹野役には劇団チョコレートケーキの西尾友樹、妻の小寿枝役に占部房子、そして大竹野の仲間にチョコレートケーキの岡本篤、元転形劇場の小田豊、大竹野の母に毛皮族の柿丸美智恵という、個性的で強力な俳優たちが揃った。


■上演台本は出演者にあて書きした?|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
登場人物のせりふが役者の個性と一体となった雰囲気であて書きしたようだが、実際に過去に仕事をしたことがあるのは『彼らの敵』に主演した西尾だけで、彼だけは脳内でせりふを喋ってくれると語る瀬戸山。一方で占部が、想像以上に瀬戸山の書いたせりふとテンポが合う形で話してくれたという。


■せりふの関西弁|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
今回、劇中に出てくる人物の殆んどが関西の人間ということで、せりふのほとんどは関西弁。しかし、出演者のほとんどが関西の人間ではなかったため、指導できる人に関西弁のレッスンについては稽古の合間に役者ごとに指導してもらっているそうだ。


■時間が前後する台本を更に再構成していく|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
瀬戸山の作品の特徴として、場面ごとに時間が前後するような構成になっていることがある。今回の作品も、大竹野の意識を垣間見た形で描くということで、物語は高校時代から劇団旗揚げ、戯曲賞受賞、そして海での事故死など、大きく揺れ動きつつ展開していく。さらに瀬戸山は役者の演技を見ていると、ここはもっと書き込めると思って、稽古に入ったところで構成をいじることもあると打ち明ける。


■謎の演劇関係者とは?|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
劇中で大竹野の元に東京からやってきたという謎の演劇関係者の女が登場する。これはプロデューサーの綿貫自身。普通に考えればありえない想定について瀬戸山は、大竹野さんのすごいところは亡くなってから戯曲集が出たり、東京でも上演されるようになって新しく見る観客が増えたりという部分があって、その亡くなった後の象徴ということであのプロデューサーを出した、と語る。


■ミナモザで取り上げる作品との違い|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
ミナモザでも今回の作品でもあまり有名ではないひとりの人物を掘り下げて描いているというところでは共通するという瀬戸山。また今回は、ミナモザではこれまでやったのない家族という関係を描くことに挑戦しているという。


■演劇をやろうとしたきっかけは?|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
中学生くらいから月に1度は観劇をしていた瀬戸山。つかこうへいの『熱海殺人事件』を見たのがきっかけで演劇をやりたい欲求が高まったものの、保守的な家庭環境のため大学では演劇活動はせず。それでも諦めきれずに4年になって北区つかこうへい劇団の音響を手伝い、そこから演劇の世界に身を投じることになったという。


■かつて役者をやった理由とは?|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
ミナモザのごく初期の頃、外部の劇団への客演も含めて役者として出演したことがある瀬戸山。だが、それは演劇の作り方や作・演出について学ぶためで、作・演出に加えて役者までを一人ではできないと話す。


■ミナモザ旗揚げ時は大竹野さんと同じだった|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
大学卒業後23歳でミナモザを旗揚げした瀬戸山。演劇を続けるために10年間は雑誌のライター業と劇団の二足のわらじを履いていたという姿は、今回の作品で描く大竹野にも重なる。


■『エモーショナルレイバー』のシアタートラム公演|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
ミナモザが演劇界で注目されるきっかけになったのがシアタートラムが若手の劇団を紹介する形でやっていた企画「ネクストジェネレーション」に参加した『エモーショナルレイバー』だった。当時ライターをやっていたことから取材して書くという手法で、ミナモザ旗揚げ当初と同じく事件をモチーフにして作品を作るという形に、方向性を変えた作品だった。


■どこかに救いのある芝居をやりたい|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
今回の綿貫プロデューサーには「あまりダークな芝居はやりたくない」と話していたという瀬戸山。はたから見れば明るい芝居はやってないかもしれないが、基本的に性善説を信じているので、どこかに救いがあるような話にしたいと語る。


■ミナモザと外部の仕事で扱う題材やテーマの使い分け|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
外部の公演について打診があったときには、「自分がミナモザでもやっているような人間を深く掘り下げる内容」あるいは「商業的な企画でもどこか自分が興味を持てる部分があるもの」、そして「公共劇場などで一般の人とその地域についてリサーチをするような企画」、という3つくらいの基準で引き受けるかどうかを判断しているという。


■今後の公演:6月末にミナモザ『彼らの敵』再演|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
『彼らの敵』は昨年、新演出で再演をして、そこからは出演者と瀬戸山のスケジュールと空いている劇場があればいつでも上演を重ねていくということにして、これからも上演していきたいと話す。


■今後取り上げてみたい作品について|瀬戸山美咲が語る『埒もなく汚れなく』
自ら福島第一原発の立入禁止区域まで足を運び、それを舞台化するなど、原発の問題に関心を持っている瀬戸山。原発関連でどうしても取り上げたいことがあり、その分野の専門の人を探していて、いつか作品にしたいと語る。



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取材:ステージウェブ編集部

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