今、演劇界で引っ張りだこの演出家のひとり、森新太郎がオフィスコットーネ・プロデュース公演でイプセンの『人民の敵』を手掛ける。森にとっては、昨年春にBunkamuraシアターコクーンで上演した『幽霊』に続く2度目のイプセン作品だ。

 演劇集団円演出部に所属しながら、商業演劇や公共劇場のプロデュース公演、さらには他の新劇系劇団の公演まで、さまざまなところで仕事をしている森。その実力のほどは、ここ数年の活動に対して、第50回毎日芸術賞演劇部門千田是也賞(2008年『田中さんの青空』、『孤独から一番遠い場所』)、平成21年度(第64回)文化庁芸術祭賞優秀賞(09年『コネマラの骸骨』)、第21回読売演劇大賞グランプリ、最優秀演出家賞(13年『汚れた手』、『エドワード二世』)、平成25年度芸術選奨演劇部門文部科学大臣新人賞(『エドワード二世』ほかの演出)、と数多くの賞を受賞していることからもうかがえる。一方、若手劇作家フジノサツコとのユニット、モナカ興業では、小劇場公演を自らプロデュースして演出するなど、幅広い活動を行っている。
 今回オフィスコットーネで上演される『人民の敵』は、19世紀後半のノルウェーを舞台に、温泉による町おこしをもくろむ人々と、源泉が工場の廃液で汚染されていることを告発するひとりの医師の対立を通して、正義とはなにかを問いかける作品だ。

オフィスコットーネ・プロデュース『人民の敵』は、8月21日(金) ─ 9月2日(水)吉祥寺シアターで上演。
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■演出することになった経緯
森が演出した劇団昴『汚れた手』(作=ジャン=ポール・サルトル、2013年6月公演)をオフィスコットーネ綿貫プロデューサーが観て、演出を打診したことから今回の企画が動き出したという。


■今回の作品を取り上げた理由
昨年3月に同じイプセンの『幽霊』を上演するにあたってさまざまなイプセン作品を読んだ森。『人民の敵』はそのときから、興味をもった作品だったが、最近のネットでの同調圧力などを考えると今まさに相応しい作品だという。


■タイトルと上演テキストについて
作品の原題は”En Folkefiende”。日本語訳では『民衆の敵』とする場合もあるが、今回は社会全体を指すという意味で「人民」の方を採った。また台本については、『幽霊』では毛利三彌訳を使ったが、今回は原千代海訳をベースに、モナカ興業で森とコンビを組むフジノサツコが構成などに少し手を入れて上演台本を書くという。


■上演台本について
フジノサツコが担当した上演台本は構成など一部手を入れるものの、時代設定を変えるような翻案はしないという。それは時代設定などが今と違っていても観客が想像して作品世界に入って行けるからだと森は話す。


■作品のテーマ
130年以上前に書かれた戯曲だが、非常に現代的な問題をはらんだ作品。森は、一見すると医師のストックマンが主役のように見えるが、実は4幕にだけ登場する顔の見えない“人民”が一番凶暴で力を持っている存在ではないかと語る。


■出演者について
全部で18人もいる出演者だが、女性は松永玲子ただひとりだけ。青山勝、塩野谷正幸、若松武史、宮島健、山本亨、有薗芳記といったアクの強い小劇場界のベテラン俳優たちを揃えたのは、ともすれば理屈が勝ってしまいがちな翻訳劇で、肉体を通して生活を感じさせてくれるからだという。


■演劇との出会い
東京出身の森だが、大学は福島県立大学。そこで演劇をするようになり、現在も福島で活動をするシア・トリエ(旧・劇団満塁鳥王一座)の主宰者・大信ペリカンらと一緒にテント芝居をしていたという。


■演劇集団円の研究所を経て演出家へ
大学卒業後、東京に戻った森は、古典も含めて演劇について勉強するため新劇系の養成所をいくつかあたって、最終的にはさまざまなジャンルの公演を行っていた演劇集団円の研究所に演出志望で入った。演出助手なら現場での貴重な労働力として生き残れるという計算もあったというが、何より演出の方が向いていると感じたからだった。


■モナカ興業について
今のように忙しくなかった頃に、何もしないと演出家として腐ってしまうからと作ったのが劇作家フジノサツコとのユニット、モナカ興業。制作的なことも含めて自身で作業しなければいけないため大変で、お金も持ち出しになってしまうが、モナカ興業でやったことが大きな劇場での仕事でも役立つことがあると話す。


■3.11について思うこと
父親の実家が福島だという森。東日本大震災直後に新国立劇場で演出した『ゴドーを待ちながら』は、「心に響く絶望からの祈り」(日本経済新聞劇評)と賞された。また震災で大きな被害を受けた水戸芸術舘で震災1年後に上演した『真夏の夜の夢』でも、市民参加の祝祭劇で復興を印象づけるなど、森は震災に関連した優れた作品を作ってきた。そんな彼が震災について思うこととは──


■これから挑戦したい作品
自分なりの切り口が掴めたチェーホフ作品を、信頼できる役者たちとやりたいと語る森。その一方で日常会話とは異なる独特の文体を持つ作品を演出したいとも語る。


■今後の予定
11月にはSPACで角替和枝、美加理という異色の組み合わせの二人芝居『薔薇の花束の秘密』(作=マヌエル・プイグ、翻訳=古屋雄一郎)を演出する森。10月の昴『谷間の女たち』(作=アリエル・ドルフマン、訳=水谷八也)とともに現代の翻訳劇だが、昴では24人も出演者がいる一方、SPACでは二人芝居と、対照的な公演だ。


取材:ステージウェブ編集部

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